難波鉦異本
ネットで偶然見つけた「難波鉦異本(なにわどら・いほん)」(もりもと崇)というコミックスにはまる。江戸「吉原」京都「島原」に対する大阪「新町」を舞台にした遊女のお話…なのだが、視点は遊女「和泉」姐さん付きの禿(かむろ)「ささら」という少女。この童女から見た姐さんは、金の亡者で奔放で男を手玉に取るヘビ女のようなキャラながら、一方で三味線の名手にして武芸の隠れ達人で井原西鶴だの竹本義太夫などから一目置かれている不思議な女性。よく描き込まれた当時の遊廓の背景や道具や衣類にしろ、「性」と「金」と「情」が交錯する絶妙な駆け引きの面白さにしろ、コミカルさと残酷さとのどかさが混交する不思議な世界観にしろ実に魅力的。コミックス界というのは時に不思議な人材(鬼才)を輩出するものだなあと、しみじみ感心してしまう。亡き杉浦日向子女史の後を継ぐ江戸本作者の登場に拍手。
ついでに元ネタとなった「色道諸分・難波鉦(難波・どら)・遊女評判記」(岩波文庫)も古書店で手に入れる。これは江戸時代初期(1680年刊)大阪難波のどら息子が遊里に出かけてなじみの遊女に遊びの指南を受ける、という形をとった当時のHow To 本。「よふ思うてみさんせ。はじめて逢ふとても〈よふござりました〉〈寝さしやりませ〉〈起きさしやりませ〉などという言葉。二十三十あいましても此ことばでござんす。床(とこ)のうちでも〈いとおしい〉ということば、なじみての後でもかわる事かや…などと延々続くリズミカルな言葉の響きがなかなか魅力的で、読んでいるとなんだか室内オペラでも聴いている気分になる。例えて言うなら「ペレアスとメリザンド」か・・・(笑)
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