創作衝動と愛の喪失の関係
脳やDNAに関する最新研究を紹介するバラエティ風科学番組(「サイエンス・ミステリー」フジテレビ)で、「ある日突然芸術衝動に駆られるようになり、そのかわりに愛を失った男性についての話」というのがあり、興味深かったので見てみた。
主人公はアメリカのとある60代の男性。脳卒中で倒れ、手術をして回復してから、(それまでは全くアートとは無関係の一労働者の生活だったのに)わけの分からない創作衝動に駆られるようになり、止まらなくなったと言うのだ。
部屋の壁一面に奇妙な絵を描き、粘土をこねて不気味な彫刻を作り、紙には詩を書きつける。文字通り寝食を忘れ、ひたすら孤独かつ寡黙に造り続ける。その姿は完璧に「芸術家」なのだが、問題がひとつ。それが「芸術性ゼロ」だということ…。
この番組では、これを脳の「障害」と捉え、創作衝動ばかりが先に立って、奥さんへの愛も、友達との付き合いも、子供への興味も完全に失い、孤独ばかりを好み、興奮したり落ち込んだりと躁と鬱が目まぐるしく入れ替わり、家にこもりっきりの社会的不適応者になってしまったことを、手術による脳の一部の欠損→ドーパミンの過剰放出→創作衝動の暴走→抑制の不全→性格障害…と解説する。
うーん。でも、これって芸術家としてはごく普通(?)の性質じゃないんだろうか。どこか障害なのかサッパリ分からない。私もほぼ100%この通りだし(笑)。
ただ、一見「プラス」の性格要素のように見える「創作(芸術)衝動」というものが、(実は脳のシステム不全によって)孤独癖や人間嫌い・躁と鬱の交代や多重人格・社会的不適応といった「マイナス」の性格要素と表裏一体のように現れる…と言うのは、話としてはちょっと面白い。
たぶん〈才能〉というのは、普通の脳にプラスとして組み込まれる追加機能ではなく、マイナスの欠損部分を補うために発生する補助機能なのだ。だから、目が見えないと勘が鋭くなり、言葉を失うと表現力は研ぎ澄まされ、望みがないほど夢は広がり、満たされないほど愛は深くなる。
「そもそも〈芸術〉も〈愛〉も両方とも手にしようなんて、
それではあんまり虫が良すぎるんじゃないかね」…と
そう言って微笑む神の声が聞こえる(笑)。
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