ベルリオーズ&R=シュトラウス「管弦楽法」
ベルリオーズ&R=シュトラウスの「管弦楽法」(音楽之友社。¥12,000)を読む。近代管弦楽法の始祖であるベルリオーズが1844年に著した「現代楽器法および管弦楽法大概論」に、1905年R=シュトラウスが注釈(ツッコミ)と譜例(ワグナーばっかり!)を加えた歴史的名著の新邦訳復刊(監修:小鍛冶邦隆、訳:広瀬大介)である。
なにしろベルリオーズとシュトラウスという音楽史上屈指の〈オーケストレイションおたく〉による共著(?)だけに、両者の(偏向した?)趣味がありあり出ていて、専門書と言うより読み物としてもなかなか面白い。19世紀のベルリオーズが「こうですぞ」と著した原文に20世紀のシュトラウスが「最近はこんなふうですぞ」と注釈を加えているのがいかにも楽しいし、「音楽の書き方を知らないこういう阿呆がいる」みたいな辛辣な言辞にもニヤリとさせられる。
声楽および指揮法にも言及しているのも、さすがオペラ作曲家&指揮者としても当代随一だったベルリオーズの面目躍如だし、最後に出て来る、ヴァイオリン120人、チェロ45人、総計465人…などという超巨大編成オーケストラ構想も、ベルリオーズらしくぶっ飛んでいてわくわくさせられる。
…と、専門家にとってはまさに興味津々と言うべき「近代管弦楽法」の名著ながら、何しろ19世紀半ば&20世紀初頭の時点での「楽器情報」だから、21世紀の今となってはいささか情報が古い点は否めない。なにしろドビュッシーもラヴェルもストラヴィンスキーもジャズも電気楽器も影も形もなかった時代の「管弦楽法」なのだ。
そんなわけで、現代でこれ一冊をもって作曲や編曲を学ぼうとするのはちょっと危険だけれど、ワーグナーやマーラーあたりの後期ロマン派までのオーケストレイションや楽器法を研究したい向きには、きわめて有効な指南書としてお勧め。作曲家なら必携の伊福部昭「管弦楽法」と並べて置けば、最強の布陣となること請け合いだ。
ただひとつ難を言えば、文章中の譜例(音域や奏法などのデータ)が小さくて見にくく、スコアの譜例がやたら大きいこと。これは逆だと思うのだが、レイアウト的になんとかならなかったのだろうか。
それから、21世紀に復刻するならもう一歩進めて、現代の作曲家がさらに「現代はこうですぞ」と注釈の注釈をすれば良かったのに!(でも、ベルリオーズとシュトラウスにオーケストレイションについてツッ込める作曲家なんているのか?と言われれば、おっしゃる通りなのだが…)
それにしても、ベルリオーズが巻頭言で「最近の作曲家は不協和音を使いたがる」とか「メロディが消えてしまった」とか「芸術は堕落してしまった」などと苦言を呈しているのには思わず苦笑。まだ19世紀も半ばで、現代音楽どころかワーグナーすらデビューするかしないかの頃なのに!
…私がシュトラウスなら、ここに「その通り!。でも、あなたの〈幻想交響曲〉は何なんですか?」と注釈(ツッコミ)を入れるな、きっと!(笑)。
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ドイツ語版を数年前にViennaのドブ社から入手しましたが、訳版が出てたのなら辞書片手に苦労しなくてもよかった。
投稿: クロちゃん | 2014年7月 2日 (水) 13:13