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2006年5月19日 (金)

芸術文化振興の憂鬱

Gagaku_1 3月に録音した「星夢の舞」とCDでのカップリングを予定していた雅楽「鳥夢舞」の初演の音源を借用すべく国立劇場(日本芸術文化振興会)に出向き、まるで〈別世界の日本〉に迷い込んだような憂鬱な気分を味わう。

 話は簡単、自分の作品を自分の制作で自分の作品集としてCD化するために、国立劇場委嘱で9年前に初演した際の自分の作品の記録DAT音源をお借りしたい・・・というだけのこと。なのに、「規定によると」と担当の人が説明し出したところ、「1秒220円(45分ほどのこの作品で60万円!)を音源の複製料として支払ってもらうことになっている」と言う。

 しかも、そこには作曲者への著作権使用料も演奏者への隣接権使用料も含まれていない「ただの複製料」で、著作権に関する手続きや発生した金額はすべてそちらで処理しろ。こちらは金をもらうだけで何もしない。そして、にもかかわらず、処理が行なわれた証拠として初演した際の演奏家21人全員の捺印した承諾書を添付したうえ申請書を出せ。そのうえで「伝統芸能の普及・啓蒙に著しく寄与するかどうか」を審査しないと、曲の1/3以上は使わせない。しかもCD化されたら印税5%までふんだくると言う。

 思わず「ここはXXXの巣窟か?」とのけぞってしまった(Xの中には適当な放送禁止用語を入れてください)。何をその頭に吹き込まれているのか、担当の人はニコニコしながら、「(自分の作品を)広く聴いて欲しい…という立場の人もいますが、一方で、ふさわしくないところで第三者に音源を使われたり、納得出来ない芸の映像をお金もうけに使われたりするので、記録を公開したくない…という出演者もいますので」と、わけの分からない理屈を繰り返す。日本語を話しているのに、まったく常識が通用しない。

 この国立劇場、数年前に独立行政法人〈日本芸術文化振興会〉という組織になって「親方日の丸」ではなくなり、芸術文化に関わりながら営利をも追求せざるを得なくなったというのだが、高額の使用料と無理難題を吹っ掛けて、それで営利を得ようとしているのか、こういう話をぶち壊しにして逆に芸術文化を封印しようとしているのか、やっていることの訳が分からない。

 ただひとつ言えることは、作った側(作曲者)からすれば今回のことは、自分の子供(作品)を誘拐されて「返して欲しくば身代金をよこせ。ついでに逃走用のヘリコプターを用意しろ」と言われているのと同じであるということだ。いや、実際、某国に拉致された方々の返還交渉をしておられる関係者の苦労がよく分かった。こんな国で芸術文化をやっていかねばならないすべての創作家たちに、心からの同情を禁じ得ない。…って、私もしっかりその一人なのだけれど(笑)

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仕事&音楽」カテゴリの記事

コメント

吉松先生、

ご同情申し上げます。
なんとも不可思議なお話ですね。

ということで、少しでも、“先生の方の印税”の足しなれば・・ということで、こちらのCD発売されましたら、購入させていただこうと思います。

garjyu

・かつては自分も国の役人をしていたという方からメールを戴きました。「国の職員への批判になってしまうので」ということで匿名での紹介になりますが、貴重なご意見ですので、ご了解を得てその一部を引用させていただきます。・・・吉松隆


 彼ら(国の役人)は、世間知らずな人間の集まりですから、事の本質が見えてないんです。
 そういう対応するというのは、自分が何のための仕事をしているのかわからないんですね。本人たちはその目的について色々語るでしょうが、多分わかってないでしょう。わかっていても、そんなことすぐに出来ない。すぐ人のせい、規則のせい、 世の中のせい、政治のせい、経済のせい、国民のせいにするんです。

 今回の日本芸術文化振興会とは違いますが、国の役人のやっている実務的なことのメインである予算編成作業なんかは、結局いかに必要の無い予算を必要であると説明するか、そのための資料作りです(もちろん本当に必要なものもありますが)。
 それも自分の課の課長から始まって、主管課予算担当・課長・部長・長官、本省予算 担当・係長・課長・官房・大臣、財務省主計局予算担当者・課長・・・と続き内閣府 へ・・・・・・・・その時々で資料を作っていきます。国会に入って質問されれば徹夜で作り、答弁書を作成し、大臣に説明なりしているわけです。難しいことやっているようで、要は一年中言い訳をしているんです。
 税金を使うわけですからそのくらい慎重に議論すべきで、そういう仕事なのは当然と思うかもしれませんが、問題は予算の中身と、何を目指しているかです。
 これで本当に私たちの生活が良くなるものなのか、この国の課題が少しでも解決の方向に前進するものなのかどうか、その視点で予算を作っているかどうかです。
 細々と生活する身になると実感、そして反省します。税金の無駄遣いがいかに罪深いことか!!

 規則なんて、人間がいいように変えればいいんですよ!
 で、その基準になるのが良心、としか言いようがないと思っています。

いちおうクラシック音楽業界のはじっこで仕事をしています。
最近、大金を手にしても教養の無い人の振る舞いや、「ゆとりの教育」という何も教えてもらっていない世代の成長を見て、芸術の豊かな世の中があるべき姿であることはお役人さんにもお分かりのようです。
しかし、文化を担当するお役所は、さまざまなモノをカバーしています。クラシック音楽の振興に予算を割いて欲しくても、高松塚古墳の傷やらカビやらに費用がかかると、「音楽さんはチケット売ったり、CD出したり、自分で稼いでね」となります。うーん、今、演奏会できる人だけ生き残っても、30年も経てば引退しちゃいます。次世代を育てるというすぐにはお金にならない事業には、一体誰がお金を出すんでしょう?
多分、私の子供が大人になる頃には、日本のクラシック音楽業界、規模もレベルも下がると思う。

同感です。
お役所に芸術文化なんか
育てられっこない(そして育てる気もない)のは
悲しいほどよく分かっています。

音楽のためにお金を出してくれ、とは言いません。
ただ、人が一生懸命やっていることの
足を引っ張るのだけはやめて欲しい!
それだけです。

音源使用については、某○HKへ問い合わせた場合も
近いことを言われたおぼえがあります。
なんらかのコネがあれば「話は別」なのでしょうが。
作曲者に対してさえここまで強く出るとは・・・。

・以前のようにコネが通じた時代の方が遥かにマシでした。現在では、誰かの口利きで便宜を図ったり特例を設けたりすると、そちらの方が問題になるらしく、「とにかく例外はなし」の規則の一点張りです。
 かつて西武の堤某氏やサントリーの佐治某氏が鶴の一声で投じた音楽界への一石も、NHKが委嘱し制作した厖大な放送初演作品も、今やろうものなら特別背任罪だとかお金のムダ使いだとか大問題になるはずです。

 その反動なのか、現在では、たまに芸術文化への助成が行われる話があっても、「人」はどこにも存在せず「書類」が「審査」を受けるだけ。本来人と人との出会いが作るものが「文化」のはずなのに、どこにも目利きの大人が存在せず、責任をとる者もなく、次の世代を育てて行く理念もなくなってしまったわけです。
 もっとも、国民の方も、もはや完全に子供の育て方の理念や国の未来へのヴィジョンを失しているわけですから、この国が文化の育て方を完全に失しているのも無理ないのかも知れませんが。

團伊玖磨氏や芥川也寸志氏が、昭和20年代のNHKのことを「何て・ホントに・ケチなんでしょ」の略だと言って笑っていたぐらいですから、日本のお偉いさん方が古典芸術家に冷たいのは昔からで、高度経済成長期やバブル期が史上まれな例外だったのかもしれません。

こんにちは。
この状況は、腹立たしい気持ちでいっぱいです。

目的を知らず(分からず)に、手段を(手続き)を目的化して、何も疑問に思わないのが、いわゆる”役人”。

こんにちは。
ざっと読ませていただきましたが、一つ疑問が。

「音源の複製料として支払ってもらうことになっている」ならば、自分で録音したら払う必要はないってことでしょうか?

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