朱鷺によせる・・・
朱鷺の数がこの5月に100羽を越えた(7月現在では98羽)という。再来年(2008年)には自然への放鳥も計画されているらしく、佐渡の空にふたたび朱鷺が舞う日が現実のものになりつつあるようだ。
私が「朱鷺によせる哀歌」を世に問うた25年前、彼らが紛う事なく「絶滅」に瀕していたことを思うと、まさに隔世の感がある。当時は、このような日が来ようとはまったく想像も出来なかったから、飼育に関わった方々の努力には敬意を表したい。もっとも、純国産種の朱鷺は現実に絶滅しており、現在の朱鷺は中国産の種を人工飼育したもの…という点についてはちょっと複雑な思いではあるのだが。
蛇足ながら、当時は現代音楽における「調性」も絶滅に瀕していて、協和音を使って交響曲を書ける日が来ようとはまったく想像すら出来なかった。交響曲作家など「絶滅種」だと確信していたから、あれから25年、ぬけぬけと5つも書いて生き残っている自分自身には戸惑いを隠せない。もっとも、音楽そのものの現状については、これもちょっと複雑な思いではあるのだが。
朱鷺は空に舞い、音楽は世界にあふれ、やがて、なぜ朱鷺に「哀歌」が書かれたのか分からない時代になり、調性に危機があったことすら忘れ去られる時代になるのだろう。それが歴史の趨勢というものなのかも知れない。
しかし、朱鷺はかつての朱鷺ではなく、音楽もかつての音楽ではない。それもまた事実だ。
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