草津音楽祭にて
この作品は、芥川竜之介の「地獄変」を元に、作曲者自身が台本を書いた(いわゆる)モノオペラ。浄瑠璃語りに相当するソプラノが物語やセリフのすべてを歌い、その背景で7人の奏者が下座音楽のように(グリッサンドやトレモロを駆使したニシムラ・サウンドによる)音響世界で寄り沿うという形の1時間ほどの舞台である。
今回は、観世栄夫氏の演出による能の役者が4人、音楽の中に現れる〈絵師〉〈その娘〉〈弟子〉〈殿様〉…という4人のキャラクターを舞で演じるという趣向の〈草津版〉の初披露。
舞台右脇に指揮者付きの洋楽器アンサンブルが陣取り、中央には炎上する牛車の舞台セットが置かれ、そこに能装束の4人の演者がしずしずと現れる…という出だしからして、なかなか興味津々の出し物である。
オペラと言っても、登場人物がアリアやメロディを歌う場面はなく、かと言って能のように楽器が寡黙に時を切る取るのでもなく、絶叫するソプラノと全編ほぼフォルテで激しいノイズ的音響を叩き出すアンサンブルが、軋み、うねり、悶えながら、地獄絵を描くために我が娘を焔の中で死なせてしまう絵師のドラマと内面世界を、緊張の持続の中で紡いでゆく。
妥協なしの正攻法の現代音楽スタイルの曲なので、モーツァルトの延長かと思って知らずに来てしまったお客さんはさぞ驚かれたことだろうが、頭の中のスイッチをちょっと切り替えて「しまった」とあきらめてしまえば(笑)、「これはこれでなかなか」楽しめたのでは?
それにしても、人間の限界を逸脱した超絶技巧が連続する壮絶なスコアを1時間にわたって弾き切った(&歌い切った)演奏者の方々には、心からの拍手と「お疲れさま!」の一言を。作曲家という奴は加減というものを知らないのですよ。ホント、すみませんね(笑)
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そうだったんですかぁ。あんなに準備したのに、ちっとも見られなかった。。。。うっ、うっ。
投稿: ほー | 2006年9月 5日 (火) 09:33