NHKBS「おーいニッポン」のロケ…〈埼玉の音探し〉…のため秩父へ行く。
埼玉県ゆかりの「音楽(歌)」ということで真っ先に思い浮かんだのが、秩父の「屋台囃子」の太鼓。というわけで、何はともあれ秩父の山へ辿り着き、丘の上から武甲山を臨む。
そして夜、秩父神社に出向き、屋台囃子(高橋利雄氏率いる「若葉会」)の練習場にお邪魔する。
屋台囃子は、毎年12月に行われる秩父夜祭りで聴かれる勇壮な和太鼓。6基の笠鉾と屋台が登場し、町は屋台囃子のリズムで満ちあふれる。
この囃子の基本のユニットは、まず小太鼓(締太鼓)が3面。これが「テレテッケテレテッケ」という8ビートのリズム連打を叩き出し、そのバックで摺り鉦(いわゆるチャンチキ)がリズムを補強する。それに乗ってソリストである大太鼓1面が「大波」「小波」などと呼ばれる自由な乱打を聴かせ、それに呼応して篠笛がオブリガート的に装飾音型を吹きまくる。
一番目立つのはもちろん大太鼓によるソリスティックな乱打だが、屋台が道の角を曲がる時には、大太鼓が休んで締太鼓だけになる「玉入れ」という打法になる。ここでソロの締太鼓奏者が叩き出す16ビートは、そのドライヴ感と言いスピード感と言い、実に素晴らしい。
面白いのは、一見均質な8ビートに聴こえる締太鼓の連打のリズムが、独特なゆらぎを持っていること。耳には「A」のように聴こえるのだが、よく聴くと3拍めが微妙に(よほど注意して聴いていないと分からないのだが)長く、「B」のようなリズムになっている。
これは地元では「子供のころから聴いていて身体に染みついている」そうなのだが、このゆらぎをキープしたまま延々と連打するというのはちょっと真似出来ない。(なので、一般の太鼓グループが「屋台囃子」を真似て演奏したものは、まずほとんどここが均質な8ビートになっている)
そう言えば、ウィーン風のワルツも微妙にゆらぐ3拍子(「3.14拍子」と言った方が正確か)。ウィーンっ子は身体に染みついているらしいが、これが実に難しい。民族的な伝統のリズムと言うのは「よそ者には簡単にマネできない」ように、ひそかな仕掛けがあるものらしい。
それにしても、ナマの太鼓の音というのは、耳で聴くだけでなく内蔵に共振して五臓六腑に染み渡る。今回の番組では、この屋台囃子にオーケストラとロックバンドが加わるスコア!を書かなければならないのだが…、さて、どうなることやら。