左手のピアニストふたたび
左手のピアニスト智内威雄(ちない・たけお)氏のドキュメンタリー番組のための取材を受ける。
彼は31歳になる俊英のピアニスト。ドイツに留学し国際コンクールに入賞し、音楽家としてのキャリアを積み始めた頃、ジストニア(筋肉が自由に動かなくなる神経症)を発症。現在は左手のピアニストとして活動しているそうだ。
私が舘野泉さんのために書いた「タピオラ幻景」も既にレパートリーとして演奏してくれていて、短いビデオで拝見した限りでは、なかなか切れ味がよくダイナミックな演奏。左手のピアノ…というジャンルでこういう優れた新しい個性が出て来るなんて、世界も捨てたもんじゃない。
「左手だけのピアノ曲を書く難しさは?」とはよく聞かれることだが、作曲家にとっては「左手のピアノ」というのも立派な楽器のひとつ。単旋律しか吹けないフルートや、伴奏ピアノが必要なヴァイオリンを、誰も「不自由な楽器」とは思わないように、1本の手で弾くピアノも条件は同じ。良い演奏家が生まれば、そのまわりに音楽が生まれる。それだけのことであって、さほど作曲するのに難しいというわけではない。
ただ、「(彼のような)音楽を志す若い人たちにひとことを」……と言われると、これは難しい。
音楽は一生を賭けても悔いのないほど素晴らしいものだけれど、職業としての音楽家(表現者)になるには闇をさまよい地獄を見る心積もりも必要。無責任に「頑張ってください」とは言えないからだ。
でも、闇があるからこそ、人は光に向かって歩き続ける。
若者よ。大いに学び鍛え、悩み苦しみ、
力強く地獄と闇とをさまよいたまえ!
…なんて言っても、テレビじゃ放送出来ないですよね(笑)。
…はい、カット! お疲れさま。
ちょっと先になるが、今年の10月18日には兵庫県立芸術文化センターでリサイタルの予定とか。詳しくはこちらへ。
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