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2007年12月 3日 (月)

三善晃「レクイエム」の衝撃

Requiem 日本の現代音楽史上屈指の名盤のひとつ、三善晃「レクイエム」(1977年のライヴ録音)がようやくCD化された。(財団法人:日本伝統文化振興財団:VZCC-1007)

 30年前(私がまだ作曲家としてデビューする前!である)、東京文化会館で行われたこのコンサートは、聴きに行った。衝撃で鳥肌が立ったのを覚えている。「レクイエム」というと、普通はラテン語の典礼文よるキリスト教的な宗教作品だが、これは全く違う。日本語の反戦詩(というよりあの戦争に関する断片的な言葉)をちりばめた合唱とオーケストラのための全3章からなる25分ほどの音楽で、死者の安息を願うどころか「死者が生者を激しく告発するような」恐ろしくも壮絶な鎮魂(たましずめ)のドラマである。
 そして、何よりその言葉の選び方が凄い・・・

 誰がドブネズミのように隠れたいか!

 甚太郎おじさん、殺さんごとしなさい

 それはそんなに古い話ではない。
 おとなしいゾウはどうして殺されたか?

 顔をそむけなさるな、母よ。
 あなたの息子が人殺しにされたことから

 あきらめてください。泣かないでください。
 トキちゃん、ケイちゃん、さよなら。

 お父さん。お父さんのひげは痛かったです。

 ああ、あなたでしたね。
 あなたも死んだのでしたね。

 人が死ぬ。その世界の火の中に私一人いる。
 そして、私も死ぬ。世界には誰もいない。
 ただ火事が機械のようにもうもうと燃えていた。

 反戦的な鎮魂曲という点では、ブリテンの「戦争レクイエム」の日本版とでも言えるのかも知れないが、これはそれを遥かに越えた苛烈さで(決して解決する事のない)死者の情念が渦巻き怨念が爆発する。
 そのため、全編不協和音で合唱は絶叫しオーケストラは咆哮するという「聴くにはつらい音楽」だが、この現代音楽的語法なしには戦争の不条理とそこから生まれた巨大な怨念を伝えるのは不可能に違いない。

 戦後の「現代音楽」が何を生み出したか?という問いの、これは(貴重なそして希少な、しかし最高の)解答のひとつと言えるだろう。

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コメント

私にとってもこの曲の衝撃は強烈でした。
三善晃氏は、「詩を、忘れてください。」
と述べていますが、聴く側としては、
この言葉には、この音楽しか対応しない、
とさえ思えるほどでした。
それでも、ときおり音楽がやや描写的に
感じられる部分が少し引っかかったりは
するのですが。

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