やばい・甘い・おいしくない
先日、ふと入った料理屋で、若者数人が料理を食べながら「わ。これヤバくね?」「うん。マズいわ」と言っているのでギョッとした。でも、作った親父さんはニコニコしている。そう。昨今では「やばい」「まずい」は、おいしいので感嘆の気持ちを抑えられなくなる自分が「やばい」「まずい」…という意味なんだそうである。
同じように、老舗の和菓子屋に入っておまんじゅうを口にした女の子が(店主の前で)いきなり「うわあ、ぜんぜん甘くない!」と叫んでいるのに驚いたことがある。これは甘味がくどくなくさっぱりしているので美味しい…という(本人にとっては)最大級の褒め言葉らしいのだが、和菓子は「甘い!」と言われるために作っているわけで(これはもう女の子に向かっていきなり「うわあ、すごい不細工!」と言うのと同じ)、昔なら絶対店主にぶん殴られているところだ。
その展開形なのか、昨今は健康食を「これ、おいしくなくて良いですよ」と薦める人がいる。これは文字通り「不味い」という意味なのだが、美味しくない→あまり食べられない→食べ過ぎない→健康に良い…ということらしい。
むかしアメリカ人で「和食党」という人に聴いた理屈もそうだった。日本食だと「あまり美味しくないので食べ過ぎることがなく、健康に良いんですよ」…と言うのだが、褒めてるのか貶しているのか微妙だなと思った記憶がある。
そう言えば、クラシックや現代音楽のコンサートで「映画音楽みたい」という言い方をする人がいる。(私もよく言われたものだが)これもかつては大衆に迎合した安っぽい作りの音楽…という否定的な意味だったのだが、昨今は、ごく普通に聴きやすくて心打たれる音楽…という褒め言葉として使う人が多いので、ぶん殴るのはちょっと待った方が良いらしい。(でも、「現代音楽みたい」というのは、いまだに否定的な意味でしか聞いたことがないけれど)
ちなみに、日本酒を飲んで普通の人が「甘い」と言ったらそれは褒め言葉だが、飲兵衛のオヤジが「甘!」と言ったら、それは「こんなもの飲めねえ」という意味だそうです。私は飲兵衛ではないので、よく分かりませんが・・・
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