迷人考
中島敦の「名人伝」という掌編に、中国の弓の名人の話が出て来る。
弓を射れば百発百中。シラミの心臓を射貫き、一矢で五羽の飛ぶ鳥を射る。しかし、それは所詮「射之射」にすぎず、弓の極意は「不射之射」。やがてそれを極めた名人は弓を持たなくなり、ついには全く触れなくなる。そして、最晩年には弓を指して「あれは何?」と訊くに至り、周囲の者を驚愕させたという。
若い頃は「んなバカな」というか、まあ、中島敦流のユーモアと思っていたが、最近とんとピアノに触らなくなっている自分に気付き、彼の言う「不射の射」を何となくリアルに実感するようになった。
なにしろ、両手でいわゆる「ピアノを弾く」という状態には・・・・かれこれ数年ほどなった記憶がない。そのくせ、今期、大河ドラマでかれこれ80曲を超える曲を書いているわけで、自分でも不思議である。はて、どうやって書いたのか?。
元々が独学無手勝流なので、即興以外でピアノは弾けず、絶対音感があるわけでもなく、ソルフェージュ能力もほぼ皆無。当然「異端」と呼ばれて、この道を独歩すること三十有余年。作曲道具も最近はすっかり電脳(パソコン)になってしまい、指が向かうのが「鍵盤」ではなく「キイボード&マウス」になってしまった、というだけのことではあるのだが・・・
ただ、年取ってぼけたら、ピアノを指して「これは何?」と訊きそうな気は・・・ちょっぴりする。
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グレン・グールドは幼いころ (生後3日目!?) から弾いて弾いて………、それが年を経ると段々と滅多に (レコーディング以外では) 弾かなくなったらしい。晩年は「50歳になったらピアノをやめる」と決め実際 (死によって) そうなった。彼はピアノを卒業したのだと思う。
申し訳ない、そのことと吉松先生のそれとは全く別のことだと思う。天分の問題。
投稿: TMurayama | 2012年3月30日 (金) 21:50