三善晃氏追悼
三善晃さん(1933~2013)は、武満徹さん(1930~1996)と並ぶ戦後日本クラシック作曲界の二大巨星。武満さんが(イチローや松井のような)大リーグ国際派とするなら、三善さんは(大相撲の横綱のような)国内チャンピオンだ。国際派の「前衛(アヴァンギャルド)」指向に対して、国内派「アカデミック(正統派)」の頂点に君臨し、賞を取りまくり、批評家たちから絶賛されまくり、 男の料理や相撲通としても知られ、 教育者として社会的にも活動し、権威の頂点に立ち続けた(私のような独学異端の野良犬作曲家から見ると)雲の上の神さまのようなヒトである。
もともと東京大学仏文科に在学中パリのコンセルヴァトワールに留学しているほどの秀才で、帰国後20代初めから作曲家として一線で活躍するなど、育ちの良さは一級。受賞歴も豪華で、国内の作曲賞総なめはもちろん、音楽家が日本でもらえそうな賞は全て貰っているのではなかろうか。おまけに、むかし(貧乏旅行で避暑に行った時)旧軽井沢銀座でばったり出くわし「すぐ近くに別荘があるんだよ」とにこにこ声をかけられ、羨ましさで卒倒しそうになったことがある・(>_<)ゞ
若い頃の作品は、現代音楽風ではありながらフランス風の硬質で精緻なサウンドで、私が初めて聞いた「交響三章」(1960)や「管弦楽のための協奏曲」(1964)などは、ある意味でアカデミックな(作曲コンクール優勝タイプの)模範的現代作品。(おかげで、当時の作曲コンクールは三善作品の亜流ばっかりだった)。
しかし、1970年代になると、きわめて晦渋で難解な…日本的な暗い情念の奔流のような…サウンドを手中にして、 戦争体験や社会の不条理などを語り始める。特に1972年に初演された「レクイエム」を初めて聞いたときの衝撃は忘れられない。コーラスは戦争の不条理を叫びまくりオーケストラは轟音で咆哮しまくる。演奏するのも聞くのもかなりきつい一品だが、現代音楽特有の不協和音や混沌としたサウンドでしか描けない世界をきっちり描いたという点で(日本が世界に誇れる)希有の傑作である。日本のオーケストラは、年末に第九を演奏するように8月には毎年必ずこの曲を演奏するべきなんじゃなかろうかとさえ思う。
その後、何度かお会いする機会が出来たのは90年代になってからだが、その頃はもう丸く?なられていて、私の作品についても「調性やメロディがあって分かりやすい音楽でもいいんじゃないの」と(ご自身もアニメ「赤毛のアン」1979など書かれていたし)仰る。でも、目は笑っていなかったような気がする・(^_^;。 (写真は1985年、NYのカーネギーホールにて)
氏の音楽を聴くと、「音楽は〈音〉を〈楽しむ〉もの」などという言葉が凄く浅い(軽薄な)音楽観に思えてきて困ってしまうことがある。「聞くのがつらい」とさえ思えるような晦渋さの向こうにある「音楽」の深淵をのぞき込む行為。それが「三善晃の音楽を聴く」ということだからだ。
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