電子楽譜はハ長調の夢を見るか?
楽譜をネット販売するサイト立ち上げの件でM氏来訪する。
私の作品は(幸運なことに)多くはCDあるいはネット配信などで聴けるようになっているが、楽譜は入手不可能なものが多い。いくつかは音楽之友社・全音楽譜・現代ギター社などから出版されているものの(ごく一部の売れ筋楽譜以外は)在庫切れ気味。そのほかの主だった曲は(出版社ではなく)音楽事務所であるジャパンアーツ(あるいはCHANDOS)が管理しているため、注文に応じてオンデマンドあるいはレンタルで楽譜の手配をしているだけというのが現状。楽器店に楽譜が並んでいるわけではない。
そのため「なんで《サイバーバード協奏曲》や《アトムハーツクラブカルテット》や《タルカス》などのスコアが簡単に手に入らないんですか」という声が多いのも現実。そこで、それらをネットで供給(販売)する方法を相談することになった次第。
実を言うと、自分の楽譜&スコアの多くは既に自前でPDF(電子化文書の国際標準規格)化してあるので、自分のホームページに貼り付けさえすれば(明日からでも)ほぼコストゼロで供給が可能だ。
元々収入がどうこう悩むほどの部数が出るわけでもなし、演奏家や若い人の勉強のために《無料》で配付してしまって構わないと思っていたほど。
さらに言えば、独り身で「遺族」もないので著作権などというのも(死後50年などと言わず)死んだと同時にパブリックドメイン(著作権フリー)にしてもらってもいいとすら考えている。(確かラヴェルもそんなことを言っていたような気がするが、どうだったろう)
ただ、私のような定年退職世代がそれをやってしまうと、これから音楽で食べていかなければならない若い現役世代にとって弊害になってしまうので「折り合い」が必要。そこで、今回ジャパンアーツの私の作品管理担当と音楽情報サイトの楽譜販売部門とで、バランスを取りながら楽譜を供給販売して行くシステムを模索して行くことになったわけである。
なにしろリアル出版の場合は、紙に印刷して製本して楽器店に配送するコストがかかる。そのため、ある程度の部数が売れないと首が回らなくなるし在庫管理が大変。需要の少ないマイナー楽器の曲や売れない現代モノなどを楽譜出版するのは夢のまた夢だった。
しかし、ネット出版の場合は、元の楽譜をPDFデータにしさえすれば、あとは印刷も配送も在庫管理も不要。ほとんどコストゼロで1部だろうが100万部だろうが供給できるうえ、在庫は決してなくならない。どんな超マイナーな(20年に1人しか見る人がいないような)スコアだろうと、24時間いつでも「見たい」時に楽譜を入手することが出来る。
さて、これは売れない作曲家たちにとって福音となるのか、あるいは更なる地獄の始まりなのか・・それは実を言うとよく分からない。
印刷された紙の楽譜は100年前の物でも読めるが、PDF自体が出来てから20年しかたっていない規格だから、20年後も読める保証はない。
いや、その前に、そもそも「楽譜」という物が20年後に今と同じようにあるのか?・・・それどころか、人間というモノが20年後にも存在しているのか?・・・などなど(ネガティヴに考えれば)それこそ色々な問題をはらんでいる。
でも、このモデルがうまく稼働して、若い世代の新しい作品や未出版の作品、あるいは出版されていない(60~70年代頃の)現代音楽の名品などが続々リストに並び始めたら(個人的に)非常に嬉しい。今はそう思っている。
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お、なんか楽しみですね。
投稿: 長谷部 | 2014年2月 1日 (土) 03:02