田部京子リサイタル
浜離宮朝日ホールに〈田部京子ピアノリサイタル〉を聴きに行く。
今回はBBワークス(ベートーヴェン&ブラームス作品連続演奏)シリーズのの第5回目(最終回)で、ブラームス:3つの間奏曲op.117、ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」と第32番ハ短調。
彼女の演奏は、どんな曲も「今生まれ落ちたかのように瑞々しく」再生する。ブラームスの間奏曲やベートーヴェンの32番のソナタなどは大いなる偏見を持って言えば(独身男性作曲家が老境にかかって孤独の中で書いたという点で)…おそらく〈女性に最も似合わない枯れた曲〉の筈なのに、まるで女神が降臨して穏やかな佇まいで神話を紡ぐかのような世界が広がる。
さらに、ごつい男が殴り弾きするのが最も似合う…と勝手に思っていた「熱情」ソナタの演奏の緻密で繊細なパッションは、この聞き慣れた曲を「初めて聴いた」瞬間に引き戻してくれた。聴いているのは紛れもなく「音楽」なのだが、そこにあるのはもはや「音」ではなく、彼女の世界の「佇まい」に触れ「時の流れ」を共有することなのだろう。
最後にアンコールで、バッハの(最もシンプルな)前奏曲ハ長調をさらりと弾いたが、これもその向こうにある「平均率クラヴィア曲集」全巻の偉容が見えるような…巨大な銀河の中の小さな星のひとかけらをふと手に載せられたような…絶妙の「佇まい」。ひさしぶりに音楽の深淵を覗き込んだかのような体験をした。
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