キース追悼
あれからキース・エマーソンのアルバムを聴き続けている。まさか「タルカス」を聴きながら涙を流す日が来ようとは、思ってもいなかった。
初めて会ったとき、この曲のオーケストラ版を本当に喜んでくれて「でも、どうして僕の曲を?」と聞かれたので、「オーケストラで鳴らすことでクラシック音楽界にもKeith Emersonの名を知らしめ、20世紀音楽の重要な作曲家のひとりとして残って欲しいからですよ。ピアソラのように」・・・と答えたところ、「そうなったら本当に嬉しい。ところで、ピアソラって誰?」
彼はロック界屈指の偉大なキイボーディストだが、本人は「音楽家、いや作曲家と呼ばれたいね」と常々言っていた。クラシックの演奏家たちがその音楽の素晴らしさに気付き、ピアソラが「タンゴ界の異端児」から「20世紀の重要な作曲家」になったように、大河ドラマやオーケストラの定期演奏会で「タルカス」が取り上げられ、未来は始まったばかりだったのに。


訃報に続いて伝わってきた英語版の記事によると、やはり指が動かない疾病で「完璧な演奏が出来ない」と悩んでいたこと、日本でのコンサート(この4月)を控えてバックアップのキイボード奏者の手配までして万全を期していたこと(それでも「もしうまく行かなかったら」「ファンを失望させたくない」と非常にナーバスになっていたこと)、昨年のコンサートのライヴ演奏を見た心ないファンからの「もうやめればいいのに」というコメント書き込みを見て落ち込んでいたこと、日本公演を終えた後は引退を考えていたこと、などつらい話が聞こえてくる。
私の還暦コンサートでの「タルカス」の演奏の後、スコアの表紙に〈To Maestro Yoshimatsu "I'm honored to know you" Keith Emerson〉とサインをくれたのは宝物だ。
キース。私こそ、貴方に(そして貴方の音楽に)出会えたことを本当に心から光栄に思います。
