シューベルトのピアノ協奏曲
ひょんなことから〈シューベルトのピアノ協奏曲〉のスコアを書棚の奥から引っ張り出すことになった。
とは言ってもシューベルトの未発表作品!というわけではなく、20年近く前、シャンドスとCD録音プロジェクトをやっていた頃、「シューベルトの最後のピアノソナタ(変ロ長調、D.960)をピアノ協奏曲化してみよう(そして田部京子さんに弾いてもらおう)」と思い立って書き上げたものの、結局演奏も録音もされずお蔵入りになってしまった幻の作品である。
これはオーケストラ版タルカスや、弦楽四重奏曲アメリカのピアノ協奏曲版と同じ発想で、「あまりに大好きな曲なので、オーケストラと一緒に鳴らしてみたい」…という純粋な遊び心から生まれたモノ。(当然ながら誰に頼まれたわけでもなく、一円にもならない道楽仕事である)。
こういう試み/遊びは、昔の「題名のない音楽会」などで山本直純氏がよくやっていたし、BBCでも「マーラーの交響曲第10番の復元」(クック版)をやっているので、コンサートと言うよりむしろラジオやテレビ的な発想なのかも知れない。私も結構好きで時々やってしまうのだが、クラシック音楽界はこの手の遊びには非常に冷たいので、試みるためには毛の生えた心臓が必要だ。
というわけで、このスコアも見事に「お蔵入り」の栄誉を得たわけだが、頑張って書いたものの演奏もされずにお蔵入り…という仕事は佃煮にするほどあるので、さほどの感慨はない。かの未完成交響曲だって40年間も他人の書棚の奥でお蔵入りになっていたのだし…と言いながらも、肖像画のシューベルト先生がさっきからムッとした顔をしているように見えるのは……気のせいだろうか?