続・遠くからの3つの歌
長谷川陽子さんの委嘱による〈遠くからの3つの歌〉ようやく仕上がる。「これは絶対チェロに合う!というメロディを3つか4つピアノ伴奏用にアレンジしてください」…という注文だったので、聖歌:カッチーニのアヴェマリア、賛美歌:アメイジング・グレイス、唱歌:ふるさと…の3曲を選んだ。
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長谷川陽子さんの委嘱による〈遠くからの3つの歌〉ようやく仕上がる。「これは絶対チェロに合う!というメロディを3つか4つピアノ伴奏用にアレンジしてください」…という注文だったので、聖歌:カッチーニのアヴェマリア、賛美歌:アメイジング・グレイス、唱歌:ふるさと…の3曲を選んだ。
このところ疲れがあんまり酷いので、緊急避難?的に一泊だけ(安眠できるベッドを目当てに)都内のホテルに泊まることにした。
夕方チェックインしてホテル内の和食のお店でお酒を一杯飲み(ほぼ一年ぶりに)ゆっくり出来たのはいいが……あまりの気持ちよさにソファで熟睡。
気が付くと朝になっていて、あっという間にチェックアウト。鯛もヒラメも乙姫も居らず、玉手箱を開けて気付いたら白髪になっていただけの竜宮城滞在。結局そのまま疲れた足を引きずってふたたび現実に帰還する。
辞世の句で人生を「一酔の夢」と詠んだのは上杉謙信だったか。人の一生というのも所詮そんなものなのだろう。サテもうそろそろチェックアウトしたいのだがフロントはどこだろう?
FM「ブラボー!オーケストラ」の収録にNHK504スタジオへ。
9月3日(日)放送分は、リスト:交響詩「レ・プレリュード」、ピアノ協奏曲第1番(p:阪田知樹)。渡邊一正指揮東京フィル。6月14日第110回オペラシティ定期より。+バーンスタイン:ウエストサイド物語セレクション(J.メイソン編)原田慶太楼指揮@第70回午後のコンサートより。
そして10月1日(日)放送分は、ドヴォルザーク:交響曲第9番〈新世界から〉@小林研一郎指揮東京フィル。2月4日第59回響の森クラシックシリーズより。+ブラームス:ハンガリー舞曲第1番・第5番。指揮:尾高忠明。2016年7月4日第1回平日の午後のコンサートより。
リストは、東欧ハンガリーから音楽の都ウィーンやパリに出て来て(ポーランド出身のショパンと共に外国人ゆえのハンデと戦いつつ)ピアノの超絶技巧派としてロックスター並みの人気を得たうえ作曲や指揮から後進の育成まで全人的な活動を果たした巨匠。一方のドヴォルザークは、東欧チェコから新世界アメリカに渡って黒人霊歌やネイティヴアメリカンの音楽に接しながら故国ボヘミアへの郷愁を交響曲(新世界から)に刻んだ庶民派の巨匠。
共に中央楽壇から見れば「異端」かつ「雑種」の存在だが、生物も音楽も雑種(ハイブリッド)の方が強い(そして生き残る能力に長けている)。個人的にも、正統派とか主流にはサッパリ興味を感じないが、雑種(西洋と東洋のちゃんぽんとかロックとクラシックの盛り合わせとか)や異端と聞くとわくわくする。自分自身が、雑種・独学の野良犬あがりのせいもあるのだろうか。
ただ、それゆえ逆に、ピュアで儚い純粋種に憧れるところも少し。昔、師匠(松村禎三氏)が「究極のマリア像を造って、誰の目にも触れない暗闇の洞窟の奥に置く」と言っていたが、誰にも聞かせず、ただ神に聴かせるためだけに存在する音楽もある。その頃は、そんな意識がなくても誰も聴いてくれないどころか演奏もしてくれなかったから、「自分の楽譜棚にはそういうマリア像が佃煮にするほどあるけどなぁ」と思ったものだが(笑)。
誰一人聴いていないが神だけは聴いている。百万人が聴いているが神は聴いていない。サテどちらがいい?…とその時は言われたが、神も人も誰もまったく聴いていない…というのもあるわけで(泣。まぁ、ピュアな雑種がいてもいいじゃないか、と。
蟪蛄(けいこ)春秋を知らず
むかし、独学で自己流の音楽を始めた時「井の中の蛙大海を知らず…だよ」と再三忠告された。狭いところに閉じこもっているだけでは、広い世界は見えないよ、と。
でも、井戸の中を隅から隅まで精査すれば、そこには海以上に広大な宇宙が広がっていることを知るだろうし、7日の命でも70年の命でも「一生懸命鳴いた夏」の尊さは変わらない。
それが大きいか小さいか、短いか長いかは、「知りえない」のではなく「知る必要が無い」ということなのだろう。今は、そう思う。
蛙には蛙の井戸がある。そして、セミにはセミの夏がある。
この夏のもうひとつの宿題が、チェロの長谷川陽子さんからの委嘱による新作だ。
ただし書き下ろしの新曲というわけではなく、「武満(徹)さんがギターのために書いた〈12の歌〉のように、自分が大好きな古今名曲のメロディをアレンジして花束にしたような組曲を」という御注文。幾つかの候補曲の中から3曲(聖歌/賛美歌/唱歌)を選んでチェロとピアノ版にアレンジすることになった。舘野泉さんのために書いた〈3つの聖歌(シューベルト/カッチーニ/シベリウス〉と同じ趣向の姉妹作である。
ちなみに長谷川陽子さんとは、大河ドラマ「平清盛」の紀行の音楽(夢詠み)を二十絃の吉村七重さんとのデュオで演奏してくださって以来のお仕事。今回の編曲集を〈遠くからの3つの歌〉と題したのは、その時のお二人の…彼方から聞こえる微かな歌を口寄せしてこの世に降臨させる巫女…というようなイメージがあったせいかも知れない。
曲はこの秋に開かれる長谷川陽子さんデビュー30周年リサイタルで披露される予定。
ここ一月ほど、夏の暑さで意識朦朧となりつつ、マリンバ協奏曲〈バードリズミクス〉のピアノリダクション版を制作中。
原曲のオーケストラ版はラテンパーカッションのリズムの饗宴が前面に出ていて「ピアノ伴奏だけではちょっと無理」な仕様。しかし、委嘱&初演者の三村奈々恵さんの「パーカッション付きでもいいじゃないですか」の一言で、ピアノ&パーカッション伴奏という変則形で仕上げることにした。
ちなみに、この曲を書いた2010年の夏は、「観測史上もっとも暑い夏」と言われた記録的猛暑。ある意味ではその暑さのおかげで頭がアフリカになって生まれた曲(実際「ジャングル大帝」を思い出しました…と言われたことがある)かも知れない。
あれから7年たち、最近の夏は……何だかもはや地球でない違った惑星に立っているような気がするほどだ。そして、その惑星に音楽は…もう聞こえない。