白い巨塔の過去と未来
山崎豊子の原作を読んだのは中学生の頃(1965年)。以来、田宮二郎版(映画/ドラマ)、佐藤慶版、村上弘明版、唐沢寿明版、今回の岡田准一版と見てきたが、当時は胃の噴門癌をめぐり、術前に断層撮影をしたかどうか、癌性肋膜炎を術後肺炎と誤診したかどうかの医療裁判だった。今回は、膵臓癌をめぐり、術前にPET検査をしたかどうか、肝臓のリンパ腫を脂肪肝と誤診したかどうか…と微妙に現代風にアレンジされている。
当時は「癌」も十数年ほど経てば結核と同じような過去の病気になると信じて疑わなかったが、あれから50年経ったのに未だに癌が死の病であることを描いたドラマが通用するとは…とドラマの感動とは別にいくぶん暗澹たる思いになる。癌の外科手術の権威である主人公本人も癌で死んでしまうのだから、もし癌の疑いで入院中の方が病室のテレビでこのドラマを見ていたら(あるいは病院が見せないだろうか)…さぞ複雑な思いになったに違いない。
ちなみに、私の妹は25年前、父は16年前、比較的早期に発見され手術を受けながら、癌で死んでいる。妹の場合(乳癌)は転移をすべて把握しないまま早期に手術したこと、父の場合(胃癌)は当初胃痛を心臓疾患と誤認して手術が遅れたこと…が「後から思えば」原因だが、もちろん「誤診」だなどとは微塵も思わなかったし、医療に携わった方々には感謝しかない。治って「当たり前」で、悪くなったら全て「誤診」、というのでは医者のなり手はいなくなってしまうだろう。
そんなこともあって、個人的にはどうしても冷徹技巧派の主人公財前五郎に肩入れしてしまう。もう少し生き延びて上告し最高裁まで行って「あなたは無罪です(結果的に患者を助けられなかったが、最善を尽くしました)」という判決を受けてニッコリ笑って死んでゆく…という話だったらどんなによかっただろうとしみじみ思う。
何年か先には(このドラマでもちょっと触れていたが)AI:人工知能のロボット医師が手術を担当するようになるのだろう。医療技術と共に患者の心理操作までプログラムに組み込まれた「ワタシは失敗しませんから」な医師。そんなロボット医師ザイゼンゴロウが主人公の新しい「白い巨塔」も是非見てみたい気がする。
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