海と光と空と
映画「海獣の子供」を見る。
五十嵐大介氏原作の全5巻は(もともと初期の「はなしっぱなし」や「そらトびタマシイ」の頃からファンだったので)読んでいたが、その精緻な絵柄をそのままフルカラーで再現した上それが「動く」のだからたまらない。魚の群れの動き、雨や嵐の空気感、圧倒的な質量を持つ巨鯨の存在感、その波しぶき、波打ち際の水面や光の描写…全てのシーンが一幅の絵画のような完成度で、コンピュータによる3DCGの技術を知らなかったら「一体、どうやって描いたのか?」と畏怖感を覚えたに違いない。(そう言えば、80年近く前の「ピノキオ」(1940!)でも巨大クジラが緻密な波しぶきを上げていたことを思い出した。あれはもちろん手作業の職人技だったけれど…)
物語は、主人公の少女(琉花)が、ジュゴンに育てられたという二人の少年(海と空。これが海獣の子供)と出会い、海の中で繰り広げられる不思議な出来事に遭遇するひと夏の話。隕石を精子とし海を子宮とする生命誕生の儀式のようなものが後半に展開し、「2001年宇宙の旅」を思わせる謎めいた色彩と光の洪水が押し寄せる。それについて脇役たちが所々で哲学的・科学的な解説をしてくれるのだが、いまいち分かりにくい…というより観念的に過ぎるので、むしろ(氏の「はなしっぱなし」の中の物語のように)そのまま神話や伝説あるいは奇譚の類として「何だか分からないがそういうことです。不思議ですね」で済ませてしまっていいと思う。「2001年」も最初はナレーションで解説を付けていたのを最終的に取ってしまったのだそうだが、これも映像(と音楽)だけで全てを語らせて充分世界観は伝わる。そういう作品のような気がする。
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