パルナッソスとベルクハウス
FM「ブラボー!オーケストラ」8月分2本の収録にNHK502スタジオへ。
8月4日(日)放送分は、ベートーヴェンの若き日のバレエ音楽「プロメテウスの創造物」の(ほぼ)全曲版。高関健指揮東京シティフィル(2019年1月26日第55回ティアラこうとう定期から)
9月1日(日)放送分は、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」(p:鈴木隆太郎)指揮:大友直人(2019年5月18日第68回響の森クラシックシリーズから)と、リスト「ハンガリー狂詩曲第2番」指揮:小林研一郎(2018年11月4日第78回休日の午後のコンサートから)。演奏は東京フィル。(こちらは7月21日放送予定が参院選のため延期となったもの)
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バレエ「プロメテウスの創造物」はベートーヴェン30歳頃の作曲デビュー作に近い舞台作品。のちに「英雄」交響曲フィナーレの素材にもなる重要な作品だが、どういうバレエだったか細かいことは資料が残っておらず良く分からない。
イタリアの振り付け師ヴィガーノが台本を書き主役を踊ったこの作品、プロメテウス(ギリシャ神話の神様で、人間に「火」を与えたため、ハゲタカにはらわたを引きずり出される罰を受ける)の話がメインではなく、彼が土くれから創った人形(これが彼の創造物)が詩や音楽や芸術を知って「真の人間」になるという物語らしい。全2幕の後半で彼ら(人間)はパルナッソス山のアポロの神殿に連れて行かれ、様々な神さまたち(芸術の神アポロ、美の神ヴィーナス、戦争の神マルス、詩や音楽の神オルフェウス、酒の神ディオニソス/バッカス・牧神パンなどなど)から学問や詩や芸術…そして酒や戦争を教わる。かくして、土くれから生まれた人形は心を持った「人間」となリ、最後は神々と一緒に悦びの踊りを踊る…という構成である。
若きベートーヴェンは、この作品から「芸術を知ることで真の人間になる」というヴィジョンを見出したのだろう。だからこそ「英雄」交響曲でこの作品の素材を使い、芸術を極めて「真の自分(ベートーヴェン)になるぞ」という宣言を行った…ということになるだろうか。
そして、後半で演奏されたリストの「ハンガリー狂詩曲第2番」の管弦楽編曲ミュラー=ベルクハウス版にも注目。この曲のオーケストラ版としては最も有名なスコアだが、今まで編曲のミュラー=ベルクハウスを(何となく)ミュラーさんとベルクハウスさん2人の共作?かと思い込んでいた。
ところが調べてみると、彼はカール・ミュラー=ベルクハウス(Karl Müller-Berghaus。1829-1907)という一人の音楽家。本名はカール・ミュラーで、ベルクハウスというのは結婚した奥さん(エルビラ)の姓。音楽家一家で兄弟全員が音楽家なので、ミュラーだけでは区別が付かないことから複姓としたものらしい。
ドイツ出身だが、ヨーロッパのあちこちでヴァイオリニスト・指揮者・作曲家として活躍(ハンガリー狂詩曲の編曲は、おそらく出版社ジムロックから頼まれてアルバイトで書いたのだろう)。50代からはフィンランド/トゥルクの音楽協会で指揮者を務め、フィンランドの神話「カレワラ」を元にしたオペラ(Die Kalewainen in Pochjola 1890)も書いていると初めて知った。英雄ヴァイナモイネンやポヒョラの娘たち、そして富を生み出す魔法の臼サンポを巡る全4幕の大掛かりなオペラである。
この作品、上演する機会のないまま、本人がドイツに帰国したのち亡くなってしまい、楽譜も無くなったと考えられていたのだが、最近、町のライブラリに保存してあった楽譜が見つかり、2017年フィンランド独立100周年記念に127年ぶりにトゥルクで初演されている。
シベリウスが「クレルヴォ」(1891)を書く前に書かれたカレワラ神話による本格的なオペラ!。YouTubeで検索すると初演の時の映像を見ることが出来るが、ワーグナーばりのなかなかの力作である。
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