FM「ブラボーオーケストラ」の収録にNHKへ。
今回は2月14日(日)放送分で、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第1組曲・第2組曲、ストラヴィンスキー組曲「火の鳥」(1919年版)。バッティストーニ指揮東京フィル。(2021年1月22日第946回サントリー定期より)
2曲とも原曲はディアギレフ率いるロシアバレエ団(バレエ・リュス)が生み落としたバレエ作品だが、このセルゲイ・ディアギレフ(1872-1929)という人物、ペテルブルクの裕福な家に生まれ一般大学の法科で学びつつR=コルサコフに作曲を学んでいたそうで…どこかで聞いたことがあると思ったら10歳年下のストラヴィンスキーと同じ経歴だ。ただ、彼の方は才能に限界を感じて大学卒業後に作曲は諦め、親の遺産を元手にまず美術品のコレクターを始め、やがてパリを拠点にロシア文化を西欧に紹介する展覧会や音楽界を開く興行主となってゆく。
そして、その延長線上にロシアバレエ団を設立。同門の後輩でもあるまだ無名のストラヴィンスキーに「火の鳥」を書かせ、それが大成功したことから一躍音楽界屈指の名プロデューサーとして名を馳せることになる。以後ラヴェル・ドビュッシー・ファリャ・プロコフィエフ・サティ・プーランクら当時の若手中堅どころに次々と新作バレエを書かせ、パヴロワ・フォーキン・ニジンスキーらが踊り振付けし、ピカソ・マチス・ミロ・ローランサンらが舞台美術を手がけ、話題を一身に集めながらロンドン・ローマ・ウィーンからアメリカ各地まで公演しているのだから凄い。
なんだか(写真で見る風貌も含めて)キングコングを連れてきてニューヨークで興行したカール・デナムのような…どこか山師的な怪しげな処もないではないが(笑)、もし彼がいなかったら「3大バレエ」も「ダフニス」もなかったのだから、20世紀音楽の道筋を決定した重要人物であることは確か。
中国の故事で名馬を見出す慧眼を持った人物を「伯楽」と言うが、秀吉や光秀を見出した信長しかり、矢吹ジョーを見出した丹下段平しかり、タモリを見出した山下洋輔・赤塚不二夫しかり、見出される側もそういう人物と出会うか出会わないか・いつどういう形で出会うか、で生涯を大きく左右されるわけで、運命の女神であると同時に人の運命を玩ぶ悪魔メフィストのような側面もあるような気がする。
ちなみに、彼らは(私自身も何人か心当たりがあるのだが)特別な嗅覚と共に普通の人とはちょっと違う嗜好を持っていることが多く、そのせいか見出された側がそのあと純粋に恩人として神のように感謝するかというと…ちょっと微妙と言えなくもない。…それが悪魔の悪魔である所以なのだが(笑。
ちなみに当番組の私の担当はこの3月まで。長年のご愛顧に感謝。