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2021年4月17日 (土)

黒澤四部作

Kurosawa4大きな仕事がいきなり消えてヒマになったので、昔懐かしの黒澤映画4本「七人の侍」「隠し砦の三悪人」「用心棒」「椿三十郎」をぶっ通しで見る。

黒澤映画は、欧米では古典として映画学校などで普通にビデオ鑑賞できていたのに、当の日本では(版権のせいか)長らく販売されていなかった。私も若い頃、友人が手に入れた海外版のVHSテープ(英語字幕付)を超貴重品として見せて貰った記憶があるが(ちなみに海賊版ではない。念のため)、日本で普通に全作品を見られるようになったのは1990年代くらいからだろうか。以後はVHS・LD・DVDと全集を買い漁り、最新版はiTunesのムービー。いつでも何処でも何度でも見られるのだから凄い時代になったものだ。

個人的に好きなのは、50/60年代の三船敏郎が主役の時代もの。白黒だし画質は荒いが「娯楽」に徹した(とにかく見ていて笑いが絶えない)究極の映画を堪能できる。それに昔の日本人の泥臭くも精悍な顔つきや風景や服装の汚れっぷりもいい。ただ、日本的な時代劇とはかなり違って、世界観は大らかで大陸的だし、三船敏郎演じる武士も禁欲的な「武士道」というよりは「遊びをせんとや生まれけむ」的な自由人(しかも差別主義ゼロのフェミニスト)。金にも女にも名誉にも武道にも興味を示さない彼の行動原理は良く分からないが、そんなことを遥かに超越して格好良くかつ面白い。

音楽としては、「七人の侍」での早坂文雄の仕事が有名だが、「隠し砦の三悪人」と「用心棒」での佐藤勝の色彩的でコミカルな音楽センスもかなり秀逸だ。時代劇なのにテーマはメジャーコードが鳴り響くビッグバンドジャズだったり、細かい断片的なフレーズで俳優の動きのコミカルさを強調したり、チェンバロとチャンチキというとんでもない組み合わせで遊女達の踊りを彩ったり。(そう言えば、昔NYで上演する和製ミュージカルの音楽を頼まれた時、「用心棒の音楽みたいなのを」と言われたことがある)。このセンスは監督の指示だったのかあるいは佐藤氏の考案だったのだろうか。その派手さ大仰さは長身肉食で有名な黒澤監督ならではで、お茶漬けと菜食のつつましい生活からは生まれ得ないようなダイナミズムに溢れている。

もうひとつ興味深いのは脚本で、黒澤監督ひとりで唯我独尊的に仕上げるのではなく、橋本忍や菊島隆三といった仲間達とアイデアを出しあい侃々諤々の議論の末に(いわゆるブレインストーミング的なやり方で)仕上げる共作だったのだそう。絶対逃げられない状況…というのを誰かが思い付き、そこから逃げ出す方法をみんなで考える…というような(ある意味で社会主義的な)共作の形というのは、ベートーヴェン的な個人芸術の形ではなくどこかロックバンド的な(こういうやり方で交響曲が書けないものかと思ったこともある)作り方で、ある意味で理想的な新しい形のような気がしないでもない。

それにしても、4作続けて見てしみじみ感じるのは、三船敏郎という人の凄さ。精悍で凜々しいだけでなく汚れ役もおどけた役も出来、無敵の剣豪として殺気を帯びた眼光を放ちながら子供や女性を相手におどけて笑わせる無害さと人懐っこさも出せる(並び立てるのは勝新太郎くらいだろうか)。黒澤・三船の両者が出会ったということ自体が(ジョンレノンとポールマッカートニーが出会ったような)二十世紀の奇蹟だったのかも知れない。人生や歴史や世界を左右するのは、才能や努力や運より「出会い」だ。改めてそう思う。

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