・・・余談・・・
最初の曲〈チカプ〉は、まだ現代音楽に両足突っ込んでいた頃の初期の作品で、原曲のフルートオケ(フルート15本!)の元のスコアは完全にシュトックハウゼンやペンデレツキばりの図形楽譜(それでも♯♭なしの旋法で書いてあるので響きだけはきれいなのだが)。それを20年ほど経ってから小編成の通常オーケストラ用にちゃんとした拍節付きのスコアとして書き直したものの、「余計なことをして」とか「改悪」とか指弾され、まったく実演の機会がなかった落ちこぼれの作品。
次の〈チェロ協奏曲〉は、初演以降20年近く誰も演奏してくれず、自分でも昔の録音を聴いてあまりの支離滅裂さに「これは埋めてしまおう」と密かに決意していた曲。父親が死んで直後に書いた作品なので、色々な思い(悲しいことや楽しいこと、子供の頃の記憶や暗い記憶)が未整理のまま並列しているせいもあるだろうか。数年前に藤岡マエストロが「宮田さんという凄いチェリストがいるので今度再演したい」と言ってくれた時も「あんまり気が進まない」と言って白けさせてしまった記憶がある。
最後の〈カムイチカプ交響曲〉に至っては、初めて「交響曲」を書いてもいいという機会をもらって20分くらいという注文だったのに延々45分かかる巨作を書いてしまい、しかも現代音楽のコンサートなのに調性鳴らしまくりビート叩きまくりメロディ歌いまくりで、業界からは「なかったこと」にされ作家としても完全無視されるきっかけになった曲。(初演の時、聴衆から温かい拍手をもらいながらも)「おそらく音で聴くのはこれが最初で最後だろうなぁ」と思っていた鬼っ子中の鬼っ子。
それが三作、一晩のコンサートで一堂に会したわけだが、上記の理由で、自分自身では怖ろしくて絶対選曲しなかったであろう組み合わせ。「名曲全集」と謳ってくれたのは嬉しいが、私の中では「鬼っ子作品選」という感じで、どうなるか内心ビクビクものだった。
しかし、今回、原田マエストロの見事な指揮と宮田大氏の聞き惚れるような熱演、そしてオーケストラの方々の共感溢れる名技に支えられ、コンサートとして成立してしまったのは…感激とか嬉しいとか言うより驚きの方が大きい。
聴衆の方々も(おそらく私の名前すら知らず間違って聴きに来てしまった人も多かっただろうに)普通に音楽として楽しんで聴いてくださった様子にホッと胸をなで下ろす。
音楽とは…そして人生とは、分からないものだ。