交響曲第5番の夜
読響プレミアの公開収録(東京オペラシティ)で交響曲第5番の演奏に立ち会う。演奏は原田慶太楼指揮読売日本交響楽団。
私が14歳の時に作曲家を志したのは、父親が持ってきた「運命」のスコア→がきっかけだ。そのせいで「ジャジャジャジャーンで始まりハ長調のトニカで終わる交響曲」を書く…というのが終生の夢になった。
2001年にその夢を叶えた時、父親は癌の闘病中。初演は車椅子で聴きに来てくれたが体力が落ちていたので、「やかましい曲だな」と言っただけだった。そのあとイギリスで録音し、「父親に捧ぐ」と解説に書いた…と言うと「いいのか?そんなこと書いて」と戸惑いながら喜んでくれたが、翌年CDを聞くことは叶わないまま亡くなってしまった。
父の葬儀のあと書斎に有るゲーテのデスマスク(曾祖父がドイツ留学した時に手に入れたものらしい)を見ていたら、ゲーテがベートーヴェンの第5を聞いたとき「やかましい曲だな。天井が落ちてきそうだ」と言ったという話を思い出した。音楽を巡って色々なものが収束してゆく不思議な縁を感じ続けている。
ちなみに、この曲は「運命」と同時に「ファウスト」仕立てでもあり、突然現れて人生を変えてしまう悪魔(メフィストフェレス)と喪失した物(グレーチェン)がテーマ。
父親が持ってきた運命のスコアが最初の「悪魔」だが、その後突然現れて私のオーケストラ全曲を演奏し録音し始めたフジオカ氏が次の「悪魔」。そして今、第三の悪魔ハラダ氏が「交響曲を全部演奏する」と言い出してコンプリートしつつある。
人生いろいろ。「運命」もいろいろ。Verweile doch, du bist so schön!
余談ながら、1994年にサイバーバード協奏曲を初演して貰ったのもこの番組(当時は「読響オーケストラハウス)。あれから30年ほど経つ。